第14回 上田暢子さん
1.がんがわかったきっけについて
がんがわかったのは、43歳の時でした。
当時、市役所に勤めていましたが、とても忙しくストレスフルな現場の責任者となり、毎日クレームに対応したり、心身が疲弊し休みがちになる職員のサポートをしたりと、多忙な日々が続いていました。
家に帰れば、小学生2人の子育てがあり、学童が閉まるギリギリの時間にお迎えに行き、休む間もなく夕食の支度や家事で毎日ヘトヘトに。疲れすぎて眠れない日もありました。
左胸のはじっこにビー玉が入っているような出っ張りがあるのに気づいたのは、そんな慌ただしい日々の続く2015年の秋に入った頃でした。
しかし、時間に追われる生活の中で、それが「乳がんかもしれない」と、ピンと来ず、時々「なんだろう」・・・気になりつつも、ぼんやりとしていました。
秋が深まり、疲れと倦怠感がどうにもならないほどひどくなってきた時、お風呂上がりに、ふと胸をみると、あの左胸のビー玉のような出っ張りが、ずいぶん大きくなってきていることに急に気づいたのです。
そこでやっと、「これは乳がんかもしれない」と青ざめました。
慌てて、近所のクリニックに予約し診察を受けたのが12月の初旬。
ところが、医師はササッと触診をした後、マンモグラフィーの画像を眺めて
「大丈夫、ちょっと乳腺で見にくいけど、なんともないでしょう」
と言ったのです。
私は納得できず、
「しかし先生、ここにビー玉のようなしこりがあるようです。エコーでも診てください」と訴えました。
「そんなに言うならば、診てみましょうか」と医師がエコーをあてたところ、
左胸に黒々とした塊がはっきりと映り、
「これは生検をしてみましょう」と、慌てた医師が向き直りました。
1週間後、生検の結果を聴きに行くと、クリニックの医師から「悪性」と記された検査結果の紙を渡され、
「どこでも紹介状を書いてあげるから、行きたい病院を決めてきて」と言われました。
予想していた結果とはいえ、クリニックからの帰り道、歩道に敷き詰められた落ち葉だけを見ながら
「もしかしたら、おばあちゃんになるまで生きられないのかな。子ども達はどうしよう」と不安な気持ちでうつむいて歩いたことを思い出します。
私はこの経験から、乳がん検診を受ける人が「高濃度乳房」についての認識を持っておくことの重要性を強く感じて、乳がん検診を受ける友人知人にも、折に触れて話すようにしています。
2.治療について:治療方針をどのように決定したか?検索した情報サイトがあれば教えてください
告知された当時、治療方針の決定のために情報サイトを検索した記憶はほとんどなく、基本的には主治医と相談して決めました。
通院先である聖路加国際病院ブレストセンター長だった山内英子先生などが執筆した『名医が語る最新・最良の治療 乳がん ~あなたに合ったベストな治療法が必ず見つかる!!~』という本を買って隅々まで読み、本を片手に、自分がどの症例に近いのかを主治医に確認したり、わからないことや、治療の選択肢について質問したりしました。
結構面倒くさい患者だったと思いますが、主治医は、質問には丁寧に答えてくれました。
しかし、乳房再建の方法などについては、経験者の話を聞いてから決めたいと思いながら、周りに気軽に聞けるような方がおらず、ネットで気軽に先輩患者さんの経験を聞けたらとても参考になるのに、思ったことが多々ありました。
また、治療と仕事や子育ての両立についても、同じ立場の人と話したいと、つくづく思ったものです。
この時の、「似た状況にある人と情報交換したり、おしゃべりしたい気持ち」への気づきと、その後偶然に、同世代のがん友が出来た時の嬉しさや心強さを経験したことが、後の「ピアリング」立上げの原動力になりました(「ピアリング」についてのお問い合わせ等は下記をご覧ください)。
失敗だったのは、乳腺は専門外の親しい友人医師に、治療について話したところ、食べ物や治療法についていろいろとアドバイスされ、それを主治医に言ったところ、
「乳腺は私の方が専門家なので、私の言うことを聞いてください」と叱られたことです。
当時はわかりませんでしたが、今思い出すと、友人医師のアドバイスは結構トンチンカンでした(笑)。
3.がんを体験したからこそわかったこと、伝えたい思いを教えてください
がんは複雑で、治療にも時間がかかり、一筋縄ではいかない病気です。
肉体的な辛さに加えて、精神的な安定を保つことや、情報を適切に取捨選択することなど、がん治療には患者力も求められます。孤独感や不安で気分が落込み、溢れる情報に混乱してしまうなど、負のスパイラル陥りがちですが、そんな方に、私が伝えたいのは「ひとりで抱え込まないで」ということです。
運営している「ピアリング」というSNSコミュニティでは、自分と似た状況で治療に向き合っている全国のたくさんの仲間とつながることができます。
抗がん剤の副作用を乗り切る工夫や、辛さ・不安に共感しあい励まし合える仲間の存在に「私はひとりじゃないんだ」と勇気づけられ、治療を継続できた、という声を沢山いただきます。
また、エビデンスに欠ける治療法やサプリなどを勧められて、迷う気持ちを書き込む人には、多くの仲間が「主治医にしっかり相談してみて」と声をかけてくれます。
「がん情報サービス」など信頼できる情報源の紹介や、正しい知識を学ぶセミナーの開催、インチキ医療に惑わされないための啓発など、安心安全なコミュニティを維持するために、顧問ドクターや多くの仲間の協力を得てコミュニティを運営しています。
従来の患者会も含め、患者さんをサポートする信頼できるネットワークにつながっておくことで、周囲のサポートを得ながら、辛さを一人で抱え込んでしまうことなく治療を進めて欲しいと思っています。(一般社団法人ピアリング 代表理事)
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