第15回 佐々木香織さん
1.がんがわかったきっかけについて
皆さんは、お尻からカメラを入れて自分の腸を見てもらうという画期的な検査があることを、ご存知でしょうか。胃カメラは経験があったけど、お尻から?! 46歳の私は、そんな世界があることを1ミリも知りませんでした。自分が直腸がんに罹患するまでは・・・。
私の中にがんがあることがわかったのは、2018年の夏。春頃に受けた会社の健康診断での便潜血検査の結果、『D判定:要精密検査』と記された紙を渡されました。その時はまだ、がんのがの字も、私の中にはなかった。全くもって元気そのもので、どこも痛くも痒くもなかったから、たまたま何かの出血が検査の時にあったのだろう程度の軽い気持ちで、大腸内視鏡検査の予約を、みなとみらいのクリニックに入れたのでした。
そこで生まれて初めてのお尻カメラを経験し、実にクリアな映像で自分の腸の様子がモニタに映し出されるのを確認しました。いくつかのポリープをその場で切除しながらカメラは進み、行って戻って肛門の出口付近に差し掛かった時、「これはやっぱりウチでは取れないなぁ」と言う先生の声。
それでもなお私は、それががんであるなどとは全く思わず。検査後の診察で先生から「大きな病院で入院して切除手術を受けることになります」と言われて、これはもしかしたら大ごとかも、とやっと気づいた次第です。頭が真っ白とか、そういうショックはなく「こんな私でも、がんになるんだ」「元気なのに、がんなんだ」と、驚きと不思議さに包まれていました。
でもその後、遅めのランチをクリニックと同じビルの中華料理店で食べながら、街ゆく人の姿や空を流れる雲を見ていたら、自然と涙が溢れました。自分が突然、別世界に入ってしまった感覚に陥りました。これから私、どうなるんだろう? 子供たちのこと、どうしよう? 職場には、親には、なんて言おう? 見えない不安に押しつぶされそうになり、その時食べた海鮮がゆの味は、全く覚えていません。
2.治療について:治療方針をどのように決定したか?検索した情報サイトがあれば教えてください
どの病院で手術したいか、次の診察までに考えておいてと言われ、私はその日からネットで検索しまくりました。「直腸がん 関東 名医 専門医」などのキーワードで検索をかけ、手術の症例数の多いところや、口コミをくまなく確認しました。同時に、自分のがん種についても学びました。
以前、自分がナレーターとしてがん教育動画に出演したことも思い出し、その動画の監修元のサイト(がん研究振興財団)を確認しました。国立がん研究センターの「がん情報サービス」サイトももちろん熟読しました。検索の途中、美しい画面デザインで、聞いたことのない治療法を勧める銀座あたりのクリニックのサイトにも出会い、割と真剣に読み込みました。
その時の私は、できることなら体に負担なく治療を受けて、悪いものを早く体から取り去りたいとの一心でした。標準治療などという言葉も、知りませんでした。大腸がんの患者会にも出会えず、情報はひたすらインターネット経由でした。
書籍では、大腸癌研究会発行の「大腸がん治療ガイドライン」(医師用、患者用)や、大手出版社が発行する著名な医師の書いた大腸がん関連本を読みました。ただ、書店に並ぶ本も玉石混合で、例えば「ガン」とカタカナで表記している本は怪しい・・・ということも、調べているうちにわかりました。こうして徐々に患者力を上げていきました。
調べた中で、都内某病院に大腸内視鏡手術の名医がいることを知り、ぜひその先生にお願いしたいと思い病院の下見にまで行きました。しかし、クリニックの担当医は「佐々木さんの腫瘍は深そうだから、内視鏡手術では取れない可能性があるので、腹腔鏡手術が良い」と。結局、都内のがん専門病院に紹介状を書いていただくことになりました。危うく素人の独断で病院を決め込むところでした。今は、紹介先の病院に通い続けて丸6年になります。
この6年の間、治療方針の選択を迫られることが何度もありました。最初の手術で、一時的人工肛門造設し肛門温存するか、永久人工肛門にするか。肺転移の切除術後、術後補助化学療法(抗がん剤治療)をするかどうか。局所再発後、念のために放射線治療をするかどうか。
それぞれ「する・しない」どちらを選んでもメリット、デメリットはあります。その都度、自分の生き方・生きるミッションを再確認しながら、なぜ今自分がその治療を受けるのか?を納得した上で、選択をしてきました。この時は、ネット検索しても、私と全く同じケースなどあるわけがなく。人の事例を探すより自分の気持ちを見つめ直すことを重視していました。
3.がんを体験したからこそわかったこと、伝えたい思いを教えてください
ズバリ、「病気はいつでも誰の隣にも、ある」ということです。それまでは、風邪もほとんど引かない体力自慢だった私。病院には出産でお世話になった程度で、無縁の世界でした。そんな人でも、がんになります。
見渡すと、患者さんたちは皆誰だって、まさかの展開でがんになっている。誰のせいでもないし、自分を責めるべきことでもない。けれど、どうしたって、病気になったら弱気になるし申し訳なさも付きまとう・・・。今までの強い自分が、もうどこにもいなくなったようにも感じ、情けなくもなりました。
でもそれも、時を経て、がんは自分の一部だと受け入れ、「がんサバイバー」という肩書きは、幾つもある肩書きの一つに過ぎないんだと思えるようになりました。全ての経験は、私を形作る大切な要素です。再発、転移を繰り返すたびに私のがん経験値は上がり、私は患者として成長していると感じるのです。
今は、大腸がん・消化器がん女性のための支え合いSNSコミュニティ「ピアリング・ブルー」の代表として活動をしています。2023年5月の開始から1年経ち、今では約800名の会員が悩みを打ち明けたり、またそれに助け舟を出したり。温かな交流を繰り広げる場所になっています。立ち上げのきっかけは、排便障害などの体験談を赤裸々に語る私のYouTubeチャンネル「大腸がん カロリーナ」での動画配信でした。
がんの経験を、世の中に役立てることが出来るなんて全く知らなかった私。今の自分があるのは、がんになったから・・・と思うと、何が良いことで何が悪いことなのかもうわからなくなります(笑)。
それでも、現実を見つめ、今できること・やれること・やりたいことを実践していきたい。命を与えられ、元気である限り、目の前に起こること一つ一つに向き合い前進していきます。それは、がんがあってもなくても、きっと変わらない私らしさだと思っています。
がんだからといって、決して不幸ではありません。自らを受け入れ、自分らしさを失わず、命を全うしたいと思うし、がんサバイバー仲間にも、そうあって欲しいと願っています。そして!お尻カメラ未体験の40代以上の方には、ぜひ症状がなくても、一度検査を受けて自分の腸をチェックしていただきたいです。私がステージ1の初期でがんを見つけてもらえたのは、まさに、カメラのおかげだからです。
SNSコミュニティ「ピアリング・ブルー」
https://bleu.peer-ring.com/
YouTubeチャンネル「大腸がん カロリーナ」
https://www.youtube.com/channel/UCNJhZV5p-J_I_v94nic6X-g
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